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樹木のクリニック

元地質基礎工業(株) 参事 荒井 賛(樹木医)


No.1 うどんこ病

被害と診断

表面にうどん粉を振りかけたような葉を見ることがあります。
 良く目にするのがマサキ、バラ、カエデ、サクラ、カシ類などで、粉のふき方も樹種によってかなり白い物からうっすらと霜の降ったよような感じのする物など様々です。
 多くの樹種はこの病気により葉が直ちに枯れることは少ないが、街路樹のトウカエデのように新葉が真っ白に冒されやがて罹病部が枯れることもあります。
 この白いのは菌体で美観が損なうばかりか、葉から養分を吸収しまた葉を覆うので同化作用を阻害し樹木を衰弱させます。

生活と発生条件

 病原菌は常緑樹場合葉面で落葉樹の場合は冬芽や落葉に菌糸や子のう殻の状態で越冬します。
 この菌は春と秋のすずしい時期に動きが活発になり、患部の表面にはびこり吸器を表皮組織にさし込んで養分を吸収します。
 やがて胞子をつくり風によって伝染しこれを繰り返し蔓延して行きます。
 風通しや日当たりが悪い所では特に被害が助長されます。

防除法

日常の管理 風通しや日当たりの良い環境にする。
落葉期の管理 病葉には子のう殻による黒点が見られるので集めて焼くか土中に深く埋める。
冬季の管理 芽には菌糸が潜り込んでいるので冬の休眠期に石灰硫黄合剤8倍液を散布する。
発生期の管理 ダイセン水和剤500倍液、ポリオキシン乳剤または水和剤1,000倍液、カラセン3,000倍液など殺菌剤を7日おき3〜4回散布。
(カラセンは高温時に薬害が出ることあるので注意が必要)

 ☆取り扱いの容易な園芸薬剤を用いる場合
   殺菌剤   :カリグリーン、サプロール乳剤、ミラネシン水溶剤 など
   殺菌殺虫剤:オルトランC、ポロポンV など


No.2 すす病

被害と診断

 モチノキ、ツバキ、ヒサカキなどの常緑樹や、新葉部が縮れたウメの木の周囲の植物の葉が黒いススで汚れ、「煤煙など大気汚染の影響では?」と疑いたくなるような状況が見られるときがあります。
 こうした場合、大抵常緑樹にはカイガラムシが、ウメの場合はアブラムシがびっしりと寄生しています。

生活と発生条件

 黒いススの正体はすす病菌(糸状菌=カビ)で、一部寄生した植物体から直接養分を吸収するものもあるようですが、多くの場合カイガラムシやアブラムシなどの吸汁性害虫の排泄物やほこりを栄養分として生活しています。
 従って、すす病によって木が枯れることはありませんが、周囲の植物を含め美観が大変損なわれること、吸汁性害虫の寄生による生育阻害を防ぐため防除が必要となります。
 なお、すす病菌は風通しが悪く日陰の環境で生育が活発になります。

防除法

 すす病の発生しにくい環境にすることとカイガラムシやアブラムシ、キジラミなど吸汁性害虫を防除するのが効果的です。
 すす病菌には銅水和剤400倍液やボルドー液などの散布で効果が見られますがが、カイガラムシやアブラムシなどがいると再発しやすく抜本的防除とはならないようです

日常の管理 風通しや日当たりの良い環境にする。
冬季の管理 掻きヘラやブラシなどでカイガラムシを掻き落とし、マシン油剤、石灰硫黄合剤などを散布する。
生育期の管理 カイガラムシに対しては6〜7月にかけスプラサイド、カルホス、スミチオンなどの乳剤1,000倍液を数回散布する。
アブラムシに対してはエストックス、スミチオンなどの乳剤1,000倍液を数回散布や浸透移行性剤(ダイシストン、オルトラン粒剤など)の土壌施用を行う。同時に防蟻剤によりアリの防除をはかる。

 ☆入手が容易な園芸薬剤を用いる場合
   殺菌殺虫剤:オルトランC、ポロポンV など
   殺虫剤   :ボルン(マシン油剤)、スミチオンスプレー、オルトラン粒剤 など
   殺菌剤   :サンボルドー など
   防蟻剤   :アリメツ、アンツハンター、アリアトール など


No.3 こうやく病

被害と診断

 サクラやウメなどの枝や幹の表面を厚いフェルト状の物が貼りついているこのがしばしば見られます。これは糸状菌(カビ)の仲間のこうやく病菌によるもので、カイガラムシと共生しています。
 病名の由来は、その形状が膏薬を貼ったようなことからこの名が付いています。
 この病気に罹りやすい樹種としてサクラやウメのほか、グミ、カキノキ、アカメガシワ、キンモクセイ、サンショウなどがあります。
 菌体の色は樹種やカイガラムシの種類によって褐色、暗褐色、黒色、灰黒色、灰色、こはく色など異なります。これを菌糸膜と言います。 
 菌糸膜は非常に丈夫で、樹木はこれに巻き付かれることにより枝や幹の肥大生長が阻害され、ひどいときは着生上部は枯死します。

生活と発生条件

 こうやく病菌は単独で樹皮表面に着生し樹皮から養分をとることもありますが、大抵はカイガラムシに寄生してカイガラムシの吸汁痕から樹皮下に進入、病斑の基地とし上下左右に拡大します。
 カイガラムシはこうやく病菌体の丈夫な膜(菌糸膜)に覆われ外敵から身を守ることができ、両者には共生関係ができます。
 従って、カイガラムシの成育し易い環境、即ち、風通しや日当たりの悪い環境がこうやく病の発生しやすい環境となります。

防除法

 カイガラムシ類の防除が第一ですが、その前に
罹病枝が少ない場合はその真下で切り落とし、切り口には防菌ゆ合促進剤を塗布します。枝や幹に多数菌糸膜が見られる場合は錆おとし用のワイヤーブラシを用い場合、樹皮に傷を付けないように菌糸膜をそぎ落とす。その跡に防菌ゆ合促進剤を塗布します。
 または、石灰硫黄合剤8倍液を菌体に塗布しておけばはがれ落ちます。
 カイガラムシ類の防除ですが、カイガラムシは沢山種類がありその生態もまちまちで、防除法も厳密には異なりますが、概ね下記によります。

日常の管理 日当たり、風通しを良くするための剪定が重要です。
冬季の管理 機械油乳剤4%を散布する。
生育期の管理 5月中旬〜下旬の幼虫孵化期に枝や幹に付いている介殻を掻き落とし、スプラサイド、スミチオン、カルホスなどの有機リン剤の1,000倍液を数回散布する。

  ☆入手が容易な園芸薬剤を用いる場合
    殺虫剤:ボルン(マシン油剤)
         スミチオン乳剤、オルトラン水和剤、ポロポンV など


No.4 アメリカシロヒトリ

被害と診断

 サクラ、スズカケノキ、クワノキ、ハナミズキ、ポプラなどの葉と枝が絹糸で巻かれたようになっていたり、葉が褐色の葉脈だけになり、周囲になんとなく蜘蛛の巣が付いているような現象が見られるときはアメリカシロヒトリの被害が考えられます。アメリカシロヒトリはヒトリガ科に属し、アメリカから進入してきた雑食性で繁殖力の強い白い蛾です。
ヒトリガの名前は成虫が夜行性で、昔灯明の火に飛び込み火を消すことから着いたようで、アメリカシロヒトリを漢字で書けば「米国白火取」となるでしょう。
 加害するのは幼虫(毛虫)で、幼虫は最初集団で生息していますが、老齢になると分散し、周囲のあらゆる植物を食い荒らすようになりますので、出来るだけ早期に発見し駆除したいものです。

生活と発生条件

 被害の発生は5月中旬〜6月中旬、7月下旬〜8月下旬の2回です。卵は葉の裏に800粒位まとめて産み付けられています。孵化すると集団で枝と葉に白い糸でテントをつくり生活します。このころの幼虫は葉肉だけを食べるので、葉の表皮と葉脈だけの被害葉が目に付くようになります。5回ほど脱皮した幼虫(老齢幼虫)は分散し葉全体を食べるようになります。成熟した幼虫は木から降り樹皮の割れ目などに毛の混じった白い繭を作り蛹になります。
 天敵として小鳥、アシナガバチなど多数あり、森林での被害はほとんど見られません。小鳥の住みやすい環境づくりはこの虫の被害を減らすのに大いに役立つようです。

防除法

 
(1) 巣に集団して生息している場合
糸で綴られた巣に集団して生息しているうちであれば、高枝ハサミなどを用い枝ごと切り取り、熱湯をかける、燃やす、殺虫剤を散布する等で駆除する、または、棒の先にぼろ布を巻き灯油をしみ込ませた物に火をつけ、巣の部分を焼く。
(2) 分散してしまった場合
 ヂィプテレックス、スミチオン、DDVPの乳剤か水和剤1,000倍液を散布する。なお、老齢になると薬剤は効き難くなります。
  ☆ 入手が容易な園芸薬剤を用いる場合
殺虫剤:スミチオン乳剤、スミソン乳剤、マラソン乳剤、ポロポンB など


No.5 キボシカミキリ・クワカミキリ

被害と診断

 夏になるとイチジクの幹や太い枝のあちこちから木屑が吹き出しているのを見ることが良くあります。これはキボシカミキリやクワカミキリの幼虫が材内を食い荒らしていることが考えられます。この他ゴマダラカミキリも同じような被害を与えます。
 7月下旬頃、枝の樹皮が剥かれているのが見られます。これは成虫が餌として囓り取ったもので、これを後食と言います。注意していれば、この時期に成虫を被害木で見つけることが出来ます。
 これらのカミキリは幼虫の時代は材の部分を、成虫の時代は木の皮(樹皮)を餌として生活しているのです。
 幼虫によりひどく加害されると樹勢は衰退し、枯死することがあります。また、幹に空洞が出来るので風などによる幹折れや枝折れし易くなります。成虫の後食がひどいとその先の枝は枯死します。

成虫の形態

 キボシカミキリ:体長2〜3cm、全体に灰色っぽく見える。黄色い斑点が体全体に見られ、触角は非常に長い。1世代(卵から成虫まで)1〜2年。幼虫は樹幹内で生活。7月中旬から9月にかけて成虫となり、後食しながら樹皮下に産卵する。
 クワカミキリ:体長3.5〜4.5cm、全体に黄褐色の微毛で覆われている。触角は体長よりやや長い程度。1世代3年。以下キボシカミキリと同じ。

防除法

(1) 成虫を見つけた場合:直ちに捕殺する。枝や幹にスミチオン乳剤、DDVP乳剤等の500倍液を塗布します。
(2) 木屑が出ている穴を見つけた場合:穴にスミチオン乳剤、DDVP乳剤等の500倍液を注射器、オイル差し、スポイト等を用い注入し、粘着テープや粘土、ガム等を用い穴を塞ぎます。
(3) 枝や幹の樹皮に噛み傷を見付けた場合:産卵は1〜2cmの細い幹枝に多く、噛み傷の下に行いますので成虫発生時期に枝や幹をよく観察し、卵を見付け次第叩いてつぶしてください。

☆入手が容易な園芸薬剤を用いる場合
 殺虫剤:スミチオン乳剤、スミソン乳剤、マラソン乳剤、ポロポンB など
 ノズルの付いたスプレー式の殺虫剤があれば便利です。


No.6 サクラのてんぐ巣病

被害と診断

 【主にソメイヨシノ、コヒガンザクラ】
 サクラの木に小枝が局部的に異常に叢生(いわゆる天狗巣状)し、この部分には葉だけが茂り花が咲かない枝が見られることがあります。これはてんぐ巣病に罹ったもので、この部分は年々大きくなり10年ほどするとやがて枯れ、樹幹腐朽の原因となります。花が咲かなくなるばかりか、蔓延すると木全体が衰弱・枯死することも少なくありません。

生活と発生条件

 病原菌は糸状菌(カビ)の一種によって起こる伝染病です。4月下旬から5月上旬の満開が終わる頃、てんぐ巣の部分の葉が褐色に変色し枯れますが、変色した葉の裏から灰白色の胞子が雨水などと共に飛散し伝染します。

防除法

 冬期間に病巣基部の膨らみを残さないように切断し、切り取った枝葉は必ず焼却処分しなければなりません。「サクラ切る馬鹿ウメ剪らぬ馬鹿」と言われるくらいサクラは腐りやすいので、切断面にはトップジンMペーストなど癒合促進剤を塗布し、傷口から腐朽菌の進入を防ぐ必要があります。また、「桜の名所」を守るためには広い範囲で一斉に行うこと、見落としがないよう2〜3年続けること等によりその周辺のてんぐ巣病を完全に駆除することが大切です。


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